やり直しの利かない難しさ、何度もやり直させる難しさ(『世界樹の迷宮』レビュー2 あえてWizとの比較編)

世界樹レビュー2回目です。
今回は前に書いた発売前の魅力不安について
実際にやってみてどういう風に感じたかを書いていこう。
これも長くなりそうなので、まずは最初の項目としてWizardlyに関してのみ。


世界樹の迷宮』は3DダンジョンRPG
よく紹介される時にも3DダンジョンRPG
古典中の古典にして始祖『Wizardly』みたいなと言われるし
実際、似ている部分や意識している部分も多い。


でも、ちょっとやってみるとWizとはやはり違うな
という印象が湧いてくる。


似ている部分は
まずキャラメイクして一つの拠点からひたすらダンジョンへ潜るだけのストイックさだったり
TRPGゲームブックを強く意識したテイストだったり
一歩一歩、一つ一つの決断が重要な緊張感があったり
そういうゲームとしての雰囲気というか味わいという奴だ。
これはオマージュと言っていいくらい狙って被せただろうと思う部分も多い。
つまり、『世界樹の迷宮』と『Wizardly』は、その世界の指向性や匂いが似ている。


では、何が違うか。
それはゲームとしての遊び方の比重の違いが
一番大きいんじゃないかと、私は思う。


どういうことかと言うと
Wizardly』も『世界樹の迷宮』もどちらも
一般のゲームに比べると難しいゲームであるのだが
その難しさの方向性が決定的に違い
そのためにゲームに向かう遊び方が大きく変わってると思う。


私の思うところ『Wizardly』の難しさというのは
その失敗した時にやり直しが利かない、リトライの難しさにあると思う。
テレポーターで石の中に出たり、死んだキャラの復活で灰になったりすると
キャラクターの救済はできず、ロストしてしまう。
宝箱の解析の失敗はテレポーターの危険性等を飛躍的に増大させるし
これら以外にも、常に失敗したら取り返しがつかないこと、というのが一杯ある。
自分が時間をかけて育てたものを一気に失いかねない恐怖と緊張感
その中でダンジョンを探索するのが『Wizardly』の醍醐味だ。


だから『Wizardly』ではとにかく失敗を恐れる、慎重に慎重を重ねたプレイこそが重要だ。
プレイヤーは自然とそういう教訓を学び、
注意すべき要所を少しずつ把握して進んでいく
ここに難しさと面白さがある。


一方で、取り返しの付かないポイントの把握さえしてしまえば
ゲーム自体に複雑さはほとんどないし、
キャラクターはガンガン強くできるし稼ぎポイントも多いのである意味楽だ。
序盤の何も分からない時に難しさのほとんどが存在していて
それを乗り越えられれば一気にパターンにはめて進められる。


もちろんこれ以外にもゲームとして説明の少ないことへの難しさとかもあるんだけど
そういうのは昔のゲームだからユーザビリティが練りこまれてなかった時代の
単なるゲームの不親切さなだけとも思うので、それを難しさとして挙げるのはどうかと思う。
前回のレビューで、古いゲームで何がきついかというと、
ユーザビリティの不親切さだ、といったように
確かにそれらは手間を増大させているけど、
それは「面倒くさい」とか「やり難い」というのが正解であって本来は難しさでもなんでもないし
そういう不親切さをやりたくてゲームをするわけじゃないし、
その不親切さを乗り越えることそのものを面白いとは思わない。
あくまで不親切さの先にあるゲームの面白さのために耐えてるだけだ。


世界樹の迷宮』の難しさは実はそのやり直しの利かない難しさとは逆の所にある。
世界樹の迷宮』では、失敗してもやり直しが利かないということはほとんど無い。
死亡や全滅に対するペナルティは復活にお金を取られる程度のものだし
キャラクターを失うほど凶悪なトラップなんてものは存在しない
色々なイベントででてくる選択も、その実態の多くは警告であり
また、その警告に挑戦し、敗れても何か取り返しの付かないことが起きるわけではない。


だからこそ『世界樹の迷宮』では一つ一つの障害が強力になっているし
そこいらの雑魚でも本気で殺しにくる強さがあったりする。
これが取り返しの付かないゲームでそんなことをやっていれば
早々に嫌になって、徐々に理不尽さすら感じることだろう。
その点『世界樹の迷宮』ではやり直しが利くので
多少の無茶なことを敵がやってきても理不尽さは感じないしこちらも無茶ができる。


つまり『世界樹の迷宮』の難しさとはやり直しが容易だからこそ
何度もやり直させ試行錯誤することを要求する難しさである、といえる。


個人的には敵が無茶をやってくる代わりに、こちらも無茶ができるというのは
虎穴に自ら踏み込んでみることができ、
危険に対していつでも冒険を心みることができる快感が生まれている気がする。


また、キャラクターの成長は有限で選択的なスキルにしばられるため
万能で無敵な状態にまではならず
敵が無茶を通してくるので階層が変わるとガラっと攻め方が変わり
常にプレイヤーに対処と選択を要求する。
ここで己のスタイルでの最善を尽くすために
試行錯誤する余地が大きく、それが面白い。


ついでに、プレイヤーが無茶がしやすいので、
その分より無理があるパーティで進むことへの許容量も大きくなってると思います。
万能なことはなかなかできないけど、それぞれ色んなことができるようになっているので
あえて色々やることで工夫していくこともできるでしょう。


とりあえず、今どちらが難しいかとかは問題にはしない。
というよりも、それはそもそも向いてる方向が違うんだから
単純に比べるのはちょっと違うんじゃないかな、とも思う。
上で遊び方の比重が違うのが、最大の相違点といったのもそういうこと。


そして、それこそが面白さでも違うベクトルになっていて
Wizardly』とは違う『世界樹の迷宮』というゲームの遊び方になっているんじゃないだろうか。
もしWizと同じ物を求めるだけなら、ただWizをやればよいだけになってしまうので
結局のところこういった『Wizardly』とは違うもの、というのが
世界樹の迷宮』ならではのゲーム性を生んでいるように思う。
# まあ、その上でどちらがどうこう、というのは好みで決めてください。
# 私は根っからのWizスキーなのでWizを贔屓しだすと止まらんのですが
# こういった面白さだ、というのを理解してみれば、これも十分アリだよな、と思います。


なお、『世界樹の迷宮』のデスペナに関することが説明書と食い違ってることを考えれば
ゲームを煮詰める段階の最後の調整辺りにおいて行われたことなんだろうな、と想像できる。
これは製作者としても、Wizライクなゲームを形作っていきながら
Wizとは違う『世界樹の迷宮』としての方向に舵を取り
最後の段階でその方向性をより強く打ち出してきたことの現れなんじゃないかと思います。


そんなわけで、個人的な提言
世界樹の迷宮』はそれなりに難易度の高いゲームなので
慎重に慎重を重ねて石橋を叩いて渡るようなプレイをしてる人も多いでしょうが
ちょっとくらいの無茶は受け止めてくれる作りになってますので
色々と「冒険」をしてみるのが楽しいんじゃないかと思うですよ。